2013年10月01日
内外政治経済
所長
稲葉 延雄
企業組織は、より高級な財・サービスをより効率的に(安価に)供給することに日々努めており、一国経済にとって大変重要な役割を担っている。そのような努力の推進エンジンは、厳しい競争の中で企業価値を高めなければならない、という事情であろう。また、需要家から幅広いサポートを得るために、未来志向で自らの技術を絶え間なく高めていかねばならないし、事業にまつわる規律も厳格に守らねばならない。
経済が抱える難問も、こうした企業活力の活用を図ることで解決できる場合がある。例えば財政赤字の問題には、主要先進国が等しく悩んでいる。年金・医療・介護といった公共サービスへの人々の需要はますます高まっている。ところが、その供給は民間の財・サービスの供給と異なり非効率でコストも高いことが、財政赤字を膨張させる原因の一つになる。
これを政府が負担するためには、高い税金か多額の国債発行で賄うしかないが、増税は痛みを伴うし、国債依存はいつまでも続けられない。だからといって、歳出を削減してサービス自体を受けられないようにしても、解決策にはならない。われわれが感じている豊かさの一部をあきらめることになるからである。
政府の行っている社会保障サービスのうち、民間に任せることができる部分は民間に委ね、民間活力をさらに活用することにより、公共サービスをより安いコストで提供する方策がもっと検討されるべきである。
一国経済の動向についても、企業活動の実情に着目する必要がある。例えば、中国経済の状況である。中国ではこのところ経済の減速傾向が明確になってきているが、これがさらなる経済の混乱を招く前兆なのか否かの議論が高まっている。識者の中には、中国政府の政策対応に期待する向きもあるが、成長のカギを握るのは中国にあっても企業集団である。
日米欧の経験と同様、中国でも経済が構造的に減速しているのに、それを認識できない企業が多く、過剰生産や過剰投資が表面化している。不良債権の増加が懸念されているのも、このためである。中国企業が過剰な在庫や不採算投資の除去を進めつつ、内外の厳しい競争に耐えて、この先事業規模を拡大できるか。これこそが、中国経済の減速の程度を占うポイントである。
日本でも、不良債権問題をめぐってはその処理のみならず、金融システムやコーポレートガバナンス(企業統治)の改革を要した。今後の中国経済を支えるための企業部門の改革も容易ではないであろう。
稲葉 延雄